私のご主人様Ⅲ

「…なんでこのタイミングで言った」

「ここちゃんが若の理不尽な怒りで怖がらせないようにするため。そんなことになったら若もここちゃんも不幸でしかないでしょ」

「なぜ俺も不幸になる」

「そのうち分かるって」

信洋は確信をはぐらかす。だが、そのはぐらかした言葉は分かっているが、認めていいのか分からなかった。

それに、まさか二度と会わないと誓ったはずの“琴音”が、こんなにも近くにいたことにどうしたらいいのか分からなかった。

「…なんであの時あいつは嘘をついたんだ」

「嘘?…あ、名前のこと?」

なんで言ってないのに分かるんだよこいつは…。

信洋はあーと苦笑いを浮かべる。

「“琴音”は薔薇の名前。ここちゃんが渡してくれた薔薇のね。ここちゃんさ、薔薇の名前聞かれたと思ったんじゃない?」

「はぁ?薔薇?」

「宮内琴葉ちゃん。ちょーっと天然かもね」

天然で済まされるか。俺は何年勘違いさせられていたと…。
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