私のご主人様Ⅲ
倒れかけた体はすぐに誰かの体に受け止められ、抱き締められるように手が回る。
もちろん悲鳴は絶叫に変わり、誰もが驚いた顔をする。
「き、季龍くん?」
「…何?俺と葉月さん、休憩なんだけど」
誰がかけた声と、麻夏くんの怒った声が重なる。でも、季龍さんは目の前の麻夏くんに視線を向けるだけで他の女子に視線を向けることもない。
沈黙が落ちる。誰もが何も言えないまま、季龍さんの次の行動を待っているようだ。
「…琴音に触れるな」
「は?」
不意に飛び出した言葉に誰も反応できない。それは一体どういう意味なのか、誰もが図りかねて動きを止める。
「…は?何、永塚は葉月さんの彼氏とでも言いたいわけ?」
十分に間を置いて、麻夏くんが出した言葉は、教室を凍りつかせるには十分すぎた。
女子が狙う季龍さんの隣にいる絶対的な権利。それを巡ってケンカはもちろん、互いを牽制しあっていた人たちにとってそれは笑えない冗談だ。
でも、実際はそんな甘いものではない。主人と身を買われた奴隷という、まるで大昔の身分制度のようにはっきりとした関係にすぎない。
だけど、それが公表されたとして何が起こるのか。それはただ、立場のはっきりとしない私が、決定的に見下されるということだけだ。
香蘭で幾度も見せつけられた、立場の違いを主張される。
決して気分のいいものではなかったあれを繰り返す。そう思うだけでもため息をこぼしたくなってしまった。