私のご主人様Ⅲ
廊下を進みながらも、視線はだんだんと下がり、ついには下を見て背を押されるままに進んでいた。
―どうして?
―なんでこんなことするの?
―怖い、怖い怖い…
心に溢れる言葉は、混乱と恐怖に埋め尽くされてしまった。
まともに周りも見ることが出来ない状態で階段を登り、たどり着いたのは屋上。後ろ手に鍵を閉めた季龍さんは、私を離してフェンスの方へ向かう。
背後のドアは誰かが追ってきたのか、ガチャガチャとドアノブを捻る音が聞こえていた。
季龍さんは何も気にしていないのか、屋上のフェンスに背を預け、運動場にいる生徒たちを見下ろしていた。
「…き、りゅ………さん」
「…来い」
伸ばされた手に導かれるように近づくけど、季龍さんの手が届く手前で足を止める。
それ以上踏み込む勇気は今の私にはない。
理解の範疇を越えた季龍さんの行動を目の当たりにして、その手をとることはできなかった。