私のご主人様Ⅲ

季龍さんは差し出していた手を下げ、何も言わずに視線を向けてくる。

何の色もない季龍さんの瞳に、押さえつけている言葉が溢れそうになる。

それを押さえつけるように唇を噛むのに、何も言わない季龍さんに、ドロドロとした感情が溢れて壊れそうになる。

「…何を怒ってる」

「っ…」

「はっきり言え、琴音」

…なんで、そんなこと言うの?

あの状況を見て、わからないはずないのに。

なんで季龍さんも、お坊っちゃまもみんな…みんな…、自分の立場をどうして分かってくれないの?

「…なん…で、嘘………」

「…嘘じゃねぇ」

「ッ!?」

無責任なその言葉に、顔が熱くなったのを自覚した。

反論することなんか許されない。でも、…でも、こんな理不尽におちょくられるのは耐えられない。

「…何、言って……るんですか?」

「…」

「守って…くれるための嘘?…それとも、寄ってくる女子への牽制ですか」

「…」

「…そんなことのために、嘘つくなら、学校なんか来れなくていい」

―止まれ、止まれ止まれ止まれ止まれ

ダメだよ。こんなこと言ったら…ダメなのに。

だけど、一度決壊した言葉を止めることなんかできなかった。
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