私のご主人様Ⅲ

決して長くはない手紙。

だけど、その言葉の1つ1つが、お父さんの声を思い出させる。

目の奥が熱くなる。手紙を持つ手に力が入ると、頭を撫でられて引き寄せられた。

何も言わないけれど、季龍さんのぬくもりに安心する。だけど、涙だけはどうしても流れない。

「…泣かないのか?」

「…」

「…泣けない…のか?」

ピクッと肩が揺れる。それだけでも季龍さんに伝わってしまったのか、そうかと頭を撫でられる。

「…お前、父子家庭だろ。母親はどうした」

「…」

不意に投げられた問いに、頭にフラッシュバックした映像が流れかける。

それを振り払い、タブレットのメモ帳を開く。

『私が1歳の時に亡くなりました』

「…そうか。…病気か」

『過労死です』

「過労死?…仕事でか」

「コク」

お母さん…そういえばもう随分夢に出てきてくれない。なんでかな…。

お父さんの手紙を見たせいか、いつも以上に寂しさを感じた。
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