私のご主人様Ⅲ
「何してる」
低い声が響いたとほぼ同時に引き寄せられて、男の子に捕まれた左手が離れる。
顔を上げると、険しい顔をした季龍さんが男の子を睨み付けている。この雰囲気、前にも感じたことがある。
これは、青海さんがやって来た日と同じだ。じゃあ、この人も季龍さんたちの過去を知る人…?
「なんでてめぇがここにいる」
「おいおい、冷たいこと言うなよ。…幼馴染に随分な出迎えなんじゃねぇの?季龍」
季龍さんの睨みも意にも介さない男の子は、挑戦的な目をする。それは決して交友的な顔じゃない。
「…場所を移す。…お前は来るな」
耳打ちで告げられた言葉に頷くと、季龍さんは離れていく。
そのまま男の子を連れて恐らく玄関に1番近い客間に行こうとする季龍さん。だけど、男の子は私を見たまま動こうとしない。
「なぁ、その子も一緒に話そうぜ?男ばっかじゃむさ苦しいだろ?」
「あいつには仕事がある」
「つめてぇこと言うなよ」
頑なに動こうとしない男の子に、季龍さんも頑なに拒否を続ける。
とにかく離れよう。そしたら諦めるだろう。
頭を下げ、今度こそ逃げるようにその場を後にする。背後から何か声が聞こえた気がしたけど無視だ。