私のご主人様Ⅲ
部屋の空気が張り詰める。
冷笑を浮かべた奴は、腰を降ろし、スマホを取り出す。だが、そのスマホはあっという間に奪われる。
「おー、久しぶりじゃねぇの。…蓮美クン?」
「…信洋」
信洋が奪ったスマホはすぐに電源を落とされ、床に落とされる。間髪いれずにそれを踏み潰した信洋に、奴は表情の変わらない顔をする。
液晶が粉々になったスマホは、側面にまで亀裂が走っていた。
「で、何しに来たわけ?俺らはもう、“敵”だろ?」
信洋が口にした言葉は、部屋の空気を一気に殺気立たせる。
奴が次にいう言葉次第では、それぞれが潜ませた鉄の塊が火を吹くだろう。
緊張が部屋を満たす。息1つするだけでも苦しい重圧がのし掛かる。
「…別に、ただ伝言を届けに…。いや、交渉と言った方が無難かな」
「交渉だと」
「その前に、伝言を1つ。…季龍、関原の親父さんが血眼でお前らのこと探してんぜ?」
“関原”という名に、頭が一瞬で赤く染まる。
目の前にいる奴の首に手の伸ばしたのはほぼ反射だった。
「若ッ!!」
「ッ!!」
信洋の声に、奴の首に手がかかる寸前で手が止まる。間近に見る奴の顔は、いつの間にかまた余裕の面を戻している。