私のご主人様Ⅲ

奴が手を離す。

信洋の手に落ちた解毒薬はすぐに投げ渡される。

ふたを開け、平沢が琴音の体を起こす。琴音の口に解毒薬の入った瓶の口を当てた。

「飲ませるなっ!!!」

不意に響いた声に、手元が揺れる。平沢が反射的に引いたおかげで、中から飛んだ液体は誰にも当たることなく床に落ちる。

田部に、肩を支えられた親父は、田部から離れ、壁を伝いに俺のもとまで来ると持っていた解毒薬を奪い取られる。

そしてそれを部屋の中にいる奴に向けた。

「信洋、そいつに浴びせてやれ」

「ッ!?」

「…りょーかい」

初めて奴の顔が恐怖に歪む。それを見た信洋は、親父の命令を下すため、それを受け取った。

逃げ出そうとした奴を奏多が瞬時に取り押さえる。奴の頭の前で屈んだ信洋は、まるで見せつけるかのようにそれを液体がこぼれる寸前まで傾けた。
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