私のご主人様Ⅲ
『忘れろ』
『…』
『お前に母親なんていなかったんだ』
『………………っ』
そのときようやく分かった。
母親を売ったのは他でもない、父親であることを。
自分の妻を人身売買にかけた男は、あまりにも静かで、何を考えているのか分からなかった。
『組長、時間です』
『あぁ』
『…』
組員に呼ばれた親父は立ち上がる。
俺に見向きもせずに部屋を出ていった親父は、“家族”なんかどうでもよくて、どこまでも非情に見えた。
母親がいなくなったことで、生活は一変した。
当たり前だった生活は一斉に崩れ去り、そこに温もりも優しさも消え去った。
組員たちは俺たちに見向きすることなく、親父も俺たちのことはいないもののように扱った。
当然のように俺は荒れ、ケンカや万引き、やれることはなんだってやった。
生きるために、向けられなくなった思いを打ち消すように。