私のご主人様Ⅲ
『梨々香!ッ!?』
戻った部屋には誰もいなかった。
梨々香がこの部屋を出ることは滅多にねぇ。それだけに、異常に気付いたのは早かった。
屋敷の中を探し回る途中、話し声が聞こえてきた部屋があった。バレないように僅かに開いた襖の間から部屋の中を覗いた。
そこにいたのは親父と、まるで人形のように着飾れた梨々香。そして、知らない男が2人…。
『関原組に頼んで正解だな。理想通りだ』
『はぁ、そうですか』
『それで、いくらだ?』
信じられなかった。…信じたくなかった。
親父は、梨々香を売ろうとしている。人身売買に関わっていることは分かっていた。でも、それを目の当たりにしたのはこれが初めてで、頭が真っ白になる。
知らない男が金を出す。親父がそれを受け取る。
甦ったのは、母親が連れていかれる場面。敵わなかった。男たちに連れていかれた母さんは…。
『行くぞ』
我に返る。梨々香に伸ばされる手。
その瞬間、襖を開け放った。