私のご主人様Ⅲ
『忘れねぇよ。俺には“妹”も“母さん”もいる。…いねぇのは親父だけだ』
『…っ』
『てめぇこそ忘れろよ。てめぇには“息子”も“娘”も“妻”も、…“家族”なんていねぇんだよ』
梨々香の肩に手を回し、膝を裏を抱える。そこから逃げ出したのは一瞬だった。
その瞬間、俺と梨々香は関原組を脱け出し、関原組に終われる立場になった。
立場も、居場所も、なにもかも失って、たった1人の“家族”だけを連れて飛び出した。
『お兄ちゃん…』
『お前は渡さねぇ。絶対に』
『…うん』
だが、実際は甘くなくて、中学生と小学生が組から逃げるなんて、そんなバカみたいなことは当然続かなかった。
野宿をすれば警察に追われ、人通りが多いところへ行けば組の奴に見つかり、裏路地へ行けば面倒な奴に絡まれてとろくでもなかった。
それでも1週間逃げ続けたその日、俺たちを見つけたのは信洋だった。
『なんで俺を頼らないんだ!!あんたは、俺の主だろうが!!!』
らしくもなく慌てた顔で、服も髪もくしゃくしゃにさせた信洋は問答無用で俺と梨々香を根城に匿った。
関原の息のかかったそこは、案外盲点だったのか、組の奴らが来ることさえなく、やっと安息できた場所だった。