私のご主人様Ⅲ
「あ、そういえばまだお祭りあるよね?」
「えっと、あ、花火大会のやつか!今週末だったはず!」
「琴音ちゃん!お祭り行こう!文化祭の参考になるし!!」
両手を捕まれてキラキラとした視線を向けられる。
でも、その期待には応えられない。
チラリと季龍さんに視線を向けると、鋭い視線と重なる。
その瞳が、断れ、許さないと言っているのは明らかで、わざわざ言葉にして確認するまでもない。
華さんたちに視線を戻し、首を横に振る。その途端落胆するような声に心が痛んだ。
「琴、バイト入ってるとか?」
「…コク」
「え、琴音ちゃんバイト土日も入れてるの?」
「…コク」
「嘘!?きつそう…大丈夫?」
心配そうな声にまた頷く。でも、嘘をついた傷は結構心をえぐった。
笑ってごまかすこともできずに、何とか切り抜けられそうだと思った心を押し殺して、立ち尽くしていた。
早くこの会話から逃れたい。
ボロを出してしまう前に。
どこか願うような気持ちで様子を見守っていると、鳴り響いたチャイムを合図に席に戻っていくクラスメイト。
そんな当たり前の行動に酷く安心して、まるで重責を降ろしたような感覚に深く息をついた。