私のご主人様Ⅲ

腕を掴んでいた手を離れ、首に手がかかる。

僅かに力が込められただけ。なのに、体は自由をなくして動けなくなる。

「琴音、逃げられると思うな」

耳元で、私だけに聞こえる声で言った季龍さんは、私の首にかけられたネックレスに触れる。

形でさえネックレスだけど、これは首輪だ。これがある限り、私は逃げられないし、そんな気も起こらない。

「…“分かってます”」

逃げる希望は奪われた。まぁ、そんな希望あったら学校に出してもらえるわけないか。

抵抗する気はない。目を閉じ、体の力を抜く。それが伝わったのか、首に回った手は離れた。

「葉月さん、知らない?」

麻夏くんの声に現実に引き戻される。

ゆっくり目を開けると目の前に麻夏くんがいる。その目は、私を助けようとしてくれている。

でも、その手は取れない。麻夏くんに抱えきれるほどの問題じゃない。

この人は私をどうこうできないんだ。
< 33 / 286 >

この作品をシェア

pagetop