私のご主人様Ⅲ
1歩踏み出す。
季龍さんはなにも言わない。私が逃げないと分かってるから。
麻夏くんに頬笑み、また1歩踏み出す。差し出された手を掴み、降ろした。
その手は私には必要ない。その手を掴めるほど、私の状況は甘くない。
「葉月さん」
「…あり、がと…」
「ッ!?違っ」
「いい、から」
麻夏くんが焦ったように言葉を繋ごうとするのを遮って、かすれた声をなんとか出す。
麻夏くんに笑いかけて、握った手を離した。
タイミングよく鳴り響くチャイム。
麻夏くんが手を伸ばすより早く捕まれた手は、季龍さんのもの。
手を引かれるままに教室を出ていく。
「琴音、帰ったら仕置きだ」
「…」
「二度とあいつと話すな。話せば、学校には行かせねぇ」
季龍さんの言葉に、また鎖が増えていくような気がした。
どんどん増えて、私を縛り上げていく鎖は、自由を奪っていく。
その事実を悲観することも、恨むことも出来ないまま、ただ与えられるものを受け入れることしかできなかった。