私のご主人様Ⅲ
人だかりで出来た壁を押し退け、目に飛び込んだ惨状に思わず息を飲む。
玄関先で座り込んだ人たちは至るところに傷を負い、衣服は赤く染まっている。
そんな人たちに付き添う人たちは傷口を抑え、止血を試みる。
だけど、抑えているタオルのようなものでさえ、赤く染まり、人によってはそこから血が滴ってしまっている。
『今日、組員を殺す』
本気だ。あの人は、本気で永塚組を潰そうとしてる。
そして、そのためならば人命を奪うことさえ厭わない。
目の前で起こっているのは、間違いなく現実だ。
なにも知らず、命の危険を感じることなく生きてきた世界のすぐ近くで、命を奪い合う世界がある。
自分がどちらに転ぶかは紙一重。平和ボケの世界にいられた間は、ただの幸運だ。
自分が今置かれている状況が、危険な世界であることを見せつけられたような気がした。