私のご主人様Ⅲ

どうする。このチャンスを、逃すわけには…。

「琴音?どうした」

「っ!?」

暁くんの声に引き戻される。気づけば手が止まってしまっていて、暁くんは心配げな顔をしている。

すっかり考え込んでしまっていたらしい。

「血、見たから怖いのか?」

「“…大丈夫。ごめんなさい”」

声は出そうとしても出ず、口パクで伝えると暁くんはそうかと言いながらまた手元の作業に戻る。

動かなきゃ。普通にしていないと、疑われてしまう。

すっかり止まっていた手を動かしながら、不意に奏多さんたちの姿を思い出す。

すると、血まみれで、自分の力で立つことさえ出来なかった人たちの姿が急に目の前に写る。

その光景に、背筋が凍りつく。

… 待って。

彼らが永塚組を潰すということは、ここにいる人たちが傷つくということ。

甘い喧嘩じゃない。暴力が飛び交う、命懸けの争いになるということ。

私の一言が、人を殺すことになるかもしれないということ。
< 54 / 286 >

この作品をシェア

pagetop