私のご主人様Ⅲ

捕まれていた腕を離され、季龍さんは置いてあったいすに腰かけた。

「…」

「…」

沈黙が落ちる。

季龍さんは何も言わないまま私を見つめ、声の出ない私はただその場で立ち尽くしている。

「…暁がお前の様子がおかしいと言ってきた」

「…」

「学校で何かあったんじゃないかってな。来てみたら怪我してんだろ。お前、本当に転んだのか」

季龍さんの見透かすような瞳に、目を逸らしたくなる。だけど、逸らせば嘘をついていることがバレてしまう。

バレたら約束もなくなってしまう。お父さんのところに帰れなくなってしまう。

分かってる。だけど、だけど…。

どうして、優しくするの?

どうして、私なんかを心配してここに来るの?今、季龍さんが1番大切なのは永塚組じゃないの?

どうして、私のために動いたの…?
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