私のご主人様Ⅲ

「…琴音」

「…“転びました”」

「…」

「“転んだんです。心配かけてすみませんでした”」

すがりたくなった気持ちを押さえ込む。

その手を掴む資格は、季龍さんに助けられる資格は、私にはないんだ。

「…ちゃんと前見て歩け」

「コクン」

立ち上がりながらそう口にした季龍さんに頷くと、頭を軽く撫でられる。

…って、あれ?

季龍さんを見上げる。…季龍さん、読唇術使えたっけ…?

「なんだ」

「“わ、分かるんですか?”」

唇を指差しながら話すと、季龍さんは眉を少し潜めるけどすぐに視線をそらす。

「大体分かる。暁ほどじゃないけどな」

ポカンと口を開けたままでいると、戻るぞと今度こそ空き教室を出た。

少し遅れて教室に入ったけど、特に何も言われなくて授業はつつがなく進む。

突然現れた季龍さんに、少しだけ視線は集まったけど、授業中はおとなしかった。
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