私のご主人様Ⅲ

そう。あくまで“授業中は”の話だ。

チャイムが鳴り、授業が終わったその瞬間、季龍さんの回りには女子の壁が出来上がってしまった。

「季龍くん久しぶりぃ!全然来ないから心配してたんだぁ」

「風邪引いてたの?大丈夫~?」

普段私が見ている顔とは打って変わって、媚を売る顔は気持ち悪いぐらい緩んでいる。

バカバカしいにもほどがある。こんな二面性のある人たちにいつもやられたい放題なのだと自覚して、流石に悔しかった。

だけど、どうにもできない。少なくとも今は絶対に。

これ以上、私に注目が集まることを避けないといけない。じゃなきゃ、いつか季龍さんにバレてしまう…。

教科書を持ち、立ち上がる。よりによって最後は移動教室。季龍さんが動く前に動いておいた方がよさそうだ。

集団を避けて廊下に出る。でも、すぐに肩を捕まれた。

「琴音。勝手に視界から消えてんじゃねぇ」

振り返るまでもない。私の肩を掴む季龍さんは、私ごと一旦教室に戻る。

そして、呆けたままの女子をまるで見えていないように扱い、教科書を取り出した。

そしてまた私の腕をつかんで歩き出す季龍さんは、一度も自分の周りを囲う女子に視線を向けなかった。
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