私のご主人様Ⅲ
「っそんな浮気女のどこがいいの!?」
その声が響くまでは、彼女たちは季龍さんにとって空気も同然だった。
だけど、その言葉は無視するにはヒステリック過ぎて、思わず足を止めてしまう。
ざっと全身から血の気が引いていくのを感じる。急速に乾いた喉がヒリヒリと痛み出す。
振り返った季龍さんの瞳に、何も感じ取れないことが更に恐怖を押し上げる。
…やめて。これ以上は、何も言わないで。
何も知らないあんたたちが、この問題に首を突っ込んでこないでよ…。
「その女!季龍くんがいない時からずっと、昼休みに図書室の準備室で颯と一緒にいるんだよ!!しかもコソコソしちゃってさ!絶対にそんな女やめた方がいいよ!!」
一気にたてしまくった女の荒い呼吸だけが教室に響く。
季龍さんのあまりにも静かな瞳を見つめ返す。
誰も何も言えないまま、重たい沈黙が教室を包む。