雪降る刹那
懐かしい日々に幕を閉じるように、私はそっと目を開けた。
「菜々子さん、綺麗よ」
「ありがとうございます」
鏡越しにそう言ってくれたのは母の古くからの知り合いで、母が亡くなった後ずっと面倒を見てくれたおばさんだ。
この人にはどんなに感謝しても仕切れない。
本当なら行けなかった筈の高校や大学へ行かせてくれた大恩人で、この人の頼みはどんなことでも断れなかった。
だからこのお見合いも、断るなんて選択肢は皆無だった。
それくらいでしか恩を返せないのだから。
「きっと良いお嫁さんになるわね」
「相手の人にも選択肢はあるので…」
「何言ってるの。菜々子さん程綺麗な人は他にいないわよ」
「そんな…」
「本当よ。タエ子さんも綺麗だったものね…」
「……はい」
うろ覚えながら母の姿を思い浮かべる。
いつも綺麗な笑顔を浮かべていた母は、子どもの私から見ても綺麗な人で自慢のお母さんだった。
鏡に映った自分の顔は、その母に年々似てきている。
そんな些細なことまでも、母との繋がりを感じられて嬉しかった。