ストーカーさんをストーカーしてみた。
ストーカーさんは異常者です。
「ゆりーっ!会いたかったよーうっ!」
両親の仕事の都合でアメリカに行ってしまったゆり───────天野百合香との感動の再会。
すっかり背も伸びて大人っぽくなったゆりは、相変わらずサラサラな黒髪ロングを翻して駆け寄ってくる。
風にさえなびかない私のミディアムヘアはおいといて、無我夢中で空港の冷たい廊下を駆け出す。
こうして、三年ぶりの再会を果たした私たちはひしと抱き合って互いの温もりを感じ合った。気持ち悪いとか言わないで。
「かなで……ほんっとに久しぶり!」
妖艶な見た目にそぐわず、子供のようにはしゃぎ始めるゆり。
美人なのにまったく飾らない性格。私が大好きなゆりのまま。
「うん、うん……。
本当に寂しかったんだからねーっ!」
中一の夏、急な転勤が決まったとゆりに知らされて、目の前が真っ暗になったことを覚えてる。
何せその頃の私は、内気でひたすら真面目で、友だちなんて呼べるものはゆりしかいなかったからだ。
ゆりがいなくなったら私はどうなってしまうのだろう、なんて考えて、ゆりの前でも泣きじゃくってしまった。
だが、私がどう泣き叫んだところでゆりのお父さんの転勤がなくなるわけじゃない。
私の止める声も虚しく、ゆりはアメリカに飛んでしまったのだ。
「メールで言ってただけある。
あんた、なんか明るくなったね。」
よしよし、と私の頭を撫でるゆり。
そりゃそうだ!
ゆりがいなくなってからと言うもの、このままじゃまずいと危機感を感じた私は、中二への進級とともに性格をガラリと変えてみせた。
手始めにスカートを短くして、髪型にも毎日アレンジを加え、新しいクラスでは派手めの女子に真っ先に話しかけた。
おかげで私は一軍女子にランクアップ。
充実した学校ライフを送っていたというわけだ。
「もう暗いだけの私じゃないから!
高校でもそれなり、うまくやってるし!」
少しだけ大人になった私をゆりに褒めてもらいたくて、片目を挟むように「大丈夫だよ」のピースサイン。
ゆりはくしゃっと目を細めて、懐かしいあの笑顔で微笑んだ。
お姉さんみたいな、あの────────。
「じゃあ、そんな成長したかなでにひとつ、頼みごとしてもいい?」
航空機から降りてくる人々はもう過ぎ去って、誰もいない静かな廊下。
ゆりは私の手を取って、その大きな瞳でじっと私を見つめた。
「尾行してほしいの。私のストーカーを。」
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