ストーカーさんをストーカーしてみた。
神様は優しくないらしい。




ゆりが可愛いことは十分知ってる。痛いほど知ってる。多分世界中で私が一番知ってる。

だからゆりにストーカーがいることも大して不思議ではない。



まぁそうだよね、そいつ消えればいいのにくらいにしか思わない。



でも。でもさ。




「なんで私がそいつを尾行する必要があんの!?」





こればっかりは聞かせてもらおう。

目の前で悠長にストローでラテをかき混ぜるゆりに食ってかかれば、ふふっと余裕な微笑みで返される。






「もー、かなでうるさいよ。ここ店内なんだから静かに!」






そう言って人差し指を唇に当てるゆりは可愛い。じゃなくて。



空港を出て近場のカフェに入り、飲み物を頼んで席についた今でも私は混乱しているのだ。




だってもしストーカーがいるなら、普通警察だろ。ていうかその呑気具合ならそんなに事態は深刻じゃないだろ、そうなんだろ!?


でもゆりを質問攻めには出来ない。可愛い子に目がない悲しき性だ。







「私、明日からモデルの仕事が控えてるんだ。事務所に影響が出るから警察はダメって言われてるんだよね。」







私は何も言ってない。何故わかった?

目を丸くしていると、ゆりはストローを吸い込んでからケタケタと笑う。







「顔に書いてあんだもん。」




「お恥ずかしい限りです!」








さすがゆり!私のことならなんでもわかるんだね!

あえて私が分かりやすいってことにはしないでおこう。





そんなことより、ゆりさん。

今なんて言いました?






「モデルって……ゆりが!?」




「んー、まぁね。

言ってなかったけど、海外でエキストラの仕事とかやっててさ。たまたまそれを見た事務所の社長さんが直々に電話かけてくれたんだ。」





「エキストラやってたの!?」






「バイト程度だから、そんなに映ってるわけじゃないけどね。」







ほわー、住む世界違うわー。



納得して何度か頷きながら、ホイップクリームを口に運ぶ。





昔から目立つ容姿をしてたけど、こうして正面から見ると確かにさらに綺麗になった気がしなくもない。

未だカフェラテすら苦く感じて、フラペチーノしか飲めない私とはすべてが違うってわけだ。







「ストーカーってアメリカ人なの?」








甘い甘いクリームを飲み込んでそう問うと、ゆりは首を横に振る。


いちいちサラサラと揺れるストレートヘアが気になって仕方ない。全力で羨ましい。









「日本人。留学生だと思う。

逃げるように帰国したから、多分彼はついてきてないと思うんだけど。」







「え、それで戻って来たの?」







「まぁそれもある。主に仕事の関係だけどね。」








もしやこれはかなり深刻なのか……?


少し心配になってきて、眉を下げる。







「気配はしょっちゅう、電話は週四程度、目が合ったり肩ぶつけられたりとか直接的な被害は週一くらい。

典型的なしつこいストーカーさんだね。」







「よく生きてたね。」









「それな。」










やけに元気な被害者に苦笑することしかできなかった。
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