ストーカーさんをストーカーしてみた。
一日目、ストーカーさんとご対面。
放課後、学校を早々に抜け出し、向かった先は芸能プロダクション。ゆりが所属するという事務所だ。
電車を乗り継ぎ、スマートフォンのマップに頼って都会を進む。あちらこちらに大きなビルが立ち並ぶ中、田舎者(私は所謂ドーナツ化現象の対象者だからそこまで田舎者でもないんだけど)特有の首が折れそうなほど上を見上げるという行為すら捨て、ひたすら歩いた。
なんとかゆりに指定された時間には間に合った。シンプルでお洒落なビルの前にゆりの姿は見えない。
確か、デビュー企画の打ち合わせだったっけ。
本当に芸能人なんだな……。住む世界が変わっちゃうのか、コノヤロー。
そんな恨み言を頭で反芻しながら、本日の使命を果たすために周りを注意深く観察した。
ストーカーっていうのは、例えば電柱の影からそっと……とか、曲がり角からそっと……とか、そういうイメージがある。とにかく怪しげな奴がゆりのストーカーで間違いない。
周りをくまなく見わたす。何でもないように行き交う社会人の皆様、あちらこちらで固まっておしゃべりを楽しんでいる女子高生。
それから、向かいのビルにもたれかかって携帯を操作しているパーカーのイケメン。
隅から隅まで凝視してみるものの、ストーカーらしき男は見当たらない。
私は安堵の息をもらした。
あの時のゆりも言ってたけど、日本には来てない可能性だってある。というか、来てない可能性の方が高い感じだった。
私は万が一ってことで呼ばれたんだから、ストーカーが付いてきていないに越したことはない。
一応ゆりが出てくるまで見張ることとして、私はビルの脇にもたれかかった。スクールバッグから携帯を出し、ゆりの連絡先を呼び出す。
「すとーかー、いないよ、と。」
いまどきの女子高生がどこぞのおばあちゃんのように口に出しながら画面をタップさせているのも妙な図だが、仕方ない。もとはクラスメイトにも馴染めない地味子なのだ。スマートフォンなんかすぐに慣れるわけがない。
メールを送るのも一苦労の私は、送信アイコンをタップした後の疲労感が半端じゃない。
ふー、とまたも息を吐いて携帯から目を上げる。
「あの。」
「ぎゃぁぁっ!?」
目の前に、男の顔があった。
その顔が先程ビルにもたれかかっていたイケメンのものであると認識するまでさほど時間はかからなかった。
近くで見てもやっぱりイケメ……じゃなくて!
「な、なんですか?」
身を縮こませて問うと、男はちらりと私の背後のビルを見て、すぐに私に視線を戻す。
「天野百合香のお友達ですか?」
「は?」
突然のゆりの名前に眉をひそめる。
男は私の様子を見て、心底嬉しそうに微笑を浮かべた。
「俺、天野百合香のストーカーです。」