ストーカーさんをストーカーしてみた。
「百合香さんを待ってるんですよね。せっかくですから、おしゃべりでもしてましょうか。」
男のぶっ飛んだ発言になすがまま、私は何故か芸能事務所の壁にもたれながらストーカー男と会話をすることになった。
隣で長い足を持て余す男は、間近で見れば見るほど美青年だった。
そう、ゆりの言っていた“特徴”に騙された気分になる程。
・伸ばしっぱなしのボサボサな黒髪
うん、まぁ確かにね。確かにボサボサに見えなくもないけどさ。
これ、セットっていうんだよ、ゆりさん……。
雑誌で見たことがある。ワックスをフル活用したみたいな、いまどきの髪型。外ハネが強くて、所謂“遊ばせてる”ってやつ。
無知な私から見てもカッコイイ。
・180cm以上はありそうな長身
・常に猫背
不気味そうな感じを想像してた。目つきめっちゃ悪くて常に睨みがちで、みたいな。
でも、実際はすごくまっすぐな目で微笑んでくれる。言われた通り猫背だけど、目線を合わせようとしてるように見える。
紳士的な優しさがカッコイイ。
・高い頻度でマスク着用
これについては謎だ。彼は今、マスクをしていない。
形のいい唇が自然な弧を描いていて、すごく素敵だ。
当然カッコイイ。
要するに男は素人目線から見ても相当カッコイイ部類に入る筈だ。
そりゃ確かにゆりも不細工だとか気持ち悪いだとかは言ってなかったけど、普通あんな風に紹介されたら誰でも不気味な人を想像するでしょ。
それがこんなイケメンだとか、聞いてない。普通気づかない!
「小森奏さんですよね?」
「え。」
横目で男の姿をそれとなく観察していたところへ、突然の問いかけ。
タイミングもそうだが、そんなことより内容だ。
「なんで私の名前……。」
「百合香さん、携帯の連絡先の一番上にあなたの名前を置いてるんですよ。
相当仲のいい方にしかこんなこと頼まないでしょうから、あなたが小森さんなんだろうなって。」
すごいでしょう、とでも言いたげなドヤ顔に唖然とする。
「携帯の中身まで見たんですか!?」
「当たり前でしょう。そこまでしてこそがストーカーってもんです。」
「なに威張ってんですか……。」
ありえない。なんなんだこの男。
さらに混乱を深めていると、男は何かに気づいたようにはっと目を上げる。
今度はなんだと頭を抱えたい衝動に駆られながらも男に目をやると、彼はその整った顔に笑顔を浮かべて言った。
「俺は天野響生と言います。響くに生きると書いて、“ヒビキ”です。
どうぞよろしくお願いします。」
よろしくなんか全くしたくない。
苦笑いを浮かべながら、私は曖昧に会釈をした。