ストーカーさんをストーカーしてみた。
「お疲れ様でしたー!」
聞き慣れた高トーンボイスが耳に入る。
隣の彼はハッと声のする方へ目を向けて、せっかくのイケメンが台無しになるような気持ちの悪いにやつきを浮かべる。
嫌悪感を思い切り目に宿して天野さんを睨むが、気づいてもいない。
「いやぁ、君は本当にいいよ。
これからの成長を楽しみにしているからね。」
「ありがとうございます! じゃあ、失礼しますね。」
事務所の人らしき中年男性に心の底から嬉しそうな笑顔を返して、ゆりが小さくお辞儀をする。
うわぁ、ちゃんと芸能人だ。
完璧な対応に感心しながら、身を翻したゆりに手を振る。
それに気づいたらしいゆりが満面の笑みで手を振り返す。今日もゆりは安心安定の可愛さである。
この美人っぷりなら天野さんが惚れても仕方ないな、と納得しながらふと隣を見ると。
「……あれ?」
いない。
隣で気持ち悪い笑みをこぼしていた筈の天野さんが消えていた。
いつの間に隠れたんだろうか。
というか、なぜあそこまで堂々としておいて今更?
小首を傾げて周りを見渡すが、それらしき姿はない。
「かなで? どうかした?」
心配そうに歩み寄ってくるゆりに曖昧な返事を返して、私は温もりが消えた隣を再度見つめた。