ストーカーさんをストーカーしてみた。
帰り道。
日が沈んですっかり暗くなったものの、街のネオンが辺りを彩っている。不慣れな都会を物珍しげに眺める私と、上機嫌にお気に入りの曲を口ずさむゆりは肩を並べて歩いていた。
「今日はごめんねー。無駄な時間待たせちゃって。」
「いや……うん、大丈夫。」
「ストーカーがまだ日本に来てないのは好都合なんだけど、いつ現れるか分からないから厄介なのよね。」
小さくため息をつくゆりに適当に相槌を打つ。
ゆりに天野響生の存在の話はしなかった。特にあの男に口止めされたわけではないし、むしろかなりオープンだったから言っても特に問題はなさそうだが、なんだか話してはいけないという衝動に駆られた。
なぜあのタイミングで逃げたのか。
まぁ本人に見つかりたくなかったっていうごく普通の──────ストーカーしてる時点で普通じゃないけど───────理由かもしれないけど。
それに、あの男の素性も気になるところだ。
やたら整った顔で綺麗に笑うからかなり年上かと思って“さん”付けで呼んだけど、同じ高校って言ってたしそんなに年が離れているわけでもなさそうだ。
かと言って同い年にも見えないし……。
つまりは年齢不詳。
とにかく、もう少し様子を見よう。
「また現れたらお願いするかもしれないけど、明日からはとりあえず大丈夫だから。ありがとね。」
ゆりがふわりと微笑むのを見て、少し考える。
天野さんの素性を探るためにはストーカーの尾行を続けなければならない。
でもここでゆりに「まだやらせて」とお願いしたら、あのストーカーのことだし、バレるかもしれない。
バレないようにやるにはゆりにも伝えない方がいい。
「……うん、わかった。
でも、ほんとに気をつけてよ。」
「うん。ほんとに感謝してるよ、かなで!」
騙してごめん、ゆり。
でもちょっと、アイツに興味が出てしまったのです。
ということで、ストーカーのストーカー、始めようと思います。