見ない振り
けれど私は何も気付いていませんって顔をして、彼を待ち続けてきた。

そうするしかなかったんだ。

だってどうしようもなく、彼に惹かれていたから。


「桜さんっておいくつなんですか?」

「私は、」


この質問に答えたら何かが変わるかも知れない。
今まで互いのことに踏み込んでこなかった私達。

今、はじめてその境界線を越えようとしている。

視界の片隅に、キラリと光るそれが目に入った。


けれど私は、


「今年28になります」


_____……見ない振りをした。






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