チョコレート・ウォーズ
火ぶたは切って落とされた
「莉子っ、何があったの?」

勢いよく教室のドアが開く音がして、宮脇莉子(みやわき りこ)が振り返ると、急いでやってきたのだろう、息を切らした高梨杏奈(たかなし あんな)の姿が飛び込んできた。

「赤瀬と一緒に図書室にいたら、陸斗くんが落ち込んだ顔でやって来たから。陸斗くんがあんな顔するのって、莉子が関係してると思って……って莉子? 泣いてるの?」

「杏ちゃん。どうしよう。私、りっくんに嫌われたかも知れない」

莉子の大きな瞳からポロポロ流れる大粒の涙。

「とにかく莉子、ちゃんと説明して」

杏奈に促され、椅子に腰を掛ける。

手にしていたハンカチで涙を拭き、一度鼻をすすった莉子は、さっきの陸斗との一件を杏奈に説明し始めた。



莉子と片山陸斗(かたやま りくと)は誕生日も産まれた病院も一緒で、高校一年生になった今日まで学校もすべて一緒という、いわゆる幼馴染という関係である。

また、両親同士が仲も良く、莉子にとって陸斗は、そばにいて当たり前の存在だった。

「ねぇ、りっくん」

「ん?」

「今年はチョコ、どこのがいい?」

バレンタインデーを一週間後に控えた今日、毎年のように繰り広げられたこの質問を、今年も莉子は当たり前のように陸斗にぶつけた。

陸斗から返ってくる答えも毎年変わらない。

『なんでもいいよ』

その言葉を聞き、莉子は母親と一緒にある年は買いに行き、またある年は手作りをしたり。そんな風に二月十四日を過ごしていた。

しかし、今年は何かが違う。

莉子の問いに、陸斗は黙ったまま。いつものように『なんでもいいよ』が聞こえてこないのである。

「りっくん?」

小首を傾げる莉子の前に、椅子から立ち上がった陸斗がやってくる。

モデルをしている両親を持つ陸斗は、高校に入ると同時にぐんぐんと身長を伸ばし、莉子との身長差は開くばかり。

今や、立っている陸斗の顔を見て会話をしようとすると、見上げないと目が合わないようになっていた。

親譲りなのは身長だけではない。くっきりとした目鼻立ち。サラサラの髪の毛。いわゆる、『イケメン』と称される姿の陸斗は、校内でも人気のある男子へと成長していた。

そんな陸斗が、莉子の目の前に立つ。

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