チョコレート・ウォーズ



莉子に指定された店につくなり、杏奈は頭を抱えた。

着いた店は、チョコレート専門店『ショコラ・ショコラ』

一流ショコラティエの作る作品はどれも繊細で美しく、味も絶品の大人気の店だ。

しかし、杏奈の心配は、莉子がこの店を選んだ理由だ。

『美味しいから』『見た目が素敵だから』といった理由なら問題はない。

「ねぇ、莉子。なんで『ショコラ・ショコラ』なの?」

杏奈の問いに、莉子はキラキラとした瞳を真っ直ぐ向けて笑顔で答える。

「昨日調べたの。ここのバレンタイン限定チョコをプレゼントしたら告白成功率が高いって! だから、私もそれにあやかりたいな、と思って」

嫌な予感が確定し、杏奈は思わず崩れ落ちそうになり、体勢を整える。

あぁ、頭痛がする。頭痛だけでなく、なんだかお腹も痛くなってきた。

「杏ちゃん?」

「莉子。それ調べたときに書いてなかった? 限定チョコは完全予約制だ、って」

「え? 予約制?」

「……今年の締め切りは一月二十五日。だから、今お店に来てももうそのチョコは買えないの」

杏奈の言葉に莉子の顔から血の気が引いていく。

「う、嘘ぉ……」

「私が莉子に嘘なんてつくはずないでしょ。もう一度調べてみなさいよ。そのサイト」

ガサゴソ、とカバンの中を探す音が横から聞こえてくる。

しばらくして、昨日見たサイトを見つけたのであろう。莉子の手が止まり、小さくため息をつくのが見えた。

「杏ちゃんの言うとおりだ。小さく注意書きで、予約商品ですって書いてあったよ」

今にも泣き出しそうな莉子の横顔を見て、杏奈の心は揺れ動く。

莉子はまったく疑問にも思っていない。なぜ、杏奈が限定チョコについてこんなに詳しく知っているのか。

聞かれてもいないのに、自分から話すのもなんだか違う気もするし、話してしまって、変に気を遣われるのも困ってしまう。

でも、これだけ純粋にバレンタインに向けて準備を進めようとしている莉子を見ていると、手を差し伸べてしまいたくなる。

「あ、あのさ、莉子」

迷いに迷った杏奈が声を掛けようとしたとき、笑顔の素敵な店員がふたりに声を掛けた。

「お客様。バレンタインにおすすめの商品は、他にも用意がありますよ。どのような商品がご希望ですか?」

「えっと、数はそんなにたくさんじゃなくてもいいです。シンプルで真っ直ぐな、そんなチョコレートを贈りたくて」

「もしかして、渡そうとしている男の子は、そういうショコラが似合う方なのかな?」

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