チョコレート・ウォーズ
店員が小さくウインクをして茶目っ気たっぷりに語り掛けると、莉子の頬がふんわり染まっていく。

店員と一緒にチョコレートを探す莉子を見つめながら、杏奈は自分の可愛げのなさを痛感していた。

くるくると大きな瞳が可愛らしい莉子と比べて、無表情だと「怖い」とか「冷たそう」と言われがちな涼しげな瞳の杏奈。

感情も表に出すのが苦手で、人付き合いもあまり上手でなかった杏奈に、高校の入学式でニコニコと話しかけてきたのが莉子だった。

「もしかして、外部入学の子? 今日からよろしくね」

中学時代の出来事が原因で、人と距離を置いて生活してきた杏奈には、莉子の真っ直ぐな姿はまぶしかった。

もう、あんな悲しい思いはしたくないのに。傷つきたくはないのに。

そう思っていても、莉子と一緒にいるのは心地よくて、思わぬ副産物まで連れてくる始末。

自分にも、ほんの少しでいいから莉子のような可愛さがほしいな。

ぼんやりとしていると、目の前にバン、と青くキレイな色の箱が目に飛び込んできた。

「杏ちゃん。これに決めたよ!」

「いいの見つかった?」

杏奈が微笑むと、莉子はますます嬉しそうに笑う。

「りっくんのイメージにぴったりなの。すごくシンプルだけど、カカオ豆にこだわったプラリネのセットなんだって」

「そっか。陸斗くん、きっと喜んでくれるよ」

「そうかな?」

「だって莉子が、陸斗くんのことを想って選んだチョコだよ。きっと大丈夫」

「ありがと、杏ちゃん」

莉子と陸斗が想いあっているのは間違いなくて、杏奈はふたりの幸せを祈っている。

でも、ふたりが完全に両想いになってしまったら……。

杏奈の頭にひとりの人物が浮かんでは、消えていく。

彼はどう思うんだろう。どんな顔してふたりからの報告を受けるんだろう。

きっと、笑顔で「おめでとう」を言うのだろう。そして、涙は絶対見せないんだろう。

莉子の笑顔を見つめながら、杏奈の胸がチクリ、と音を立てた。


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