チョコレート・ウォーズ
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莉子が真剣に陸斗へ渡すチョコレートを選んでいる頃、陸斗もまた、真剣な顔でショーケースを見つめていた。
ケースの中を彩るのは、ネックレスの数々。
そのうちのひとつを手に取り、陸斗は満足そうに微笑む。
「ユキ、お待たせ」
「おー。やっと決まったか」
傍らで陸斗の様子を見ていた幸弘が、ニンマリと笑う。
「なんだよ、その顔」
「いやあ。展開早いなあと思ってさ。ネックスレスとか超独占欲の現れじゃん」
「莉子のあの反応見てたら、少しは期待してもいいのかなって思うじゃん。悪いかよ」
「ま、それが普通だよな」
莉子の反応が今までとは違っているのは、昨日の出来事のせいなのは明白だ。
陸斗と目を合わすだけで挙動不審になり、少し顔を赤らめて視線を逸らされてしまう莉子。
そんな行動を取られてしまっては、意識してくれていると思ってしまうのも無理はない。
そして、少なからず、好意を持った意識ということを期待してしまうことも。
「俺、勢いで莉子に言っちゃったけど、今は後悔してないんだ。莉子には悪いけど、言ってちょっとすっきりしてる部分もあるしな」
「それはわかる。それと、若干楽しんでる部分あんだろ、お前」
「えっ!?」
「親友を甘くみんなよ。『いつもクールでポーカーフェイスな陸斗くん』で通ってるけど、莉子ちゃんに関してはちょっとSっ気あんじゃん」
「……ユキ。お前それ、誰にも言うなよ。莉子にはもちろん、高梨にも言うなよ」
幸弘の言うことは少しだけ当たっている。
莉子の笑顔も大好きだけど、少しだけ困って「りっくん、助けて」と泣きそうな顔で助けを求める莉子もまた、陸斗は可愛くてたまらないと思っているのだ。
今の状況はまさに、莉子の色々な表情が見れて、陸斗としては多少の不安の中にも、少しだけ今の状態を楽しむ余裕も出てきていた。
莉子からの返事次第では、その余裕もなくなる可能性もあるのだが、今はただ、莉子の気持ちが聞ける日を、待ってやるだけだと思っている。
「大丈夫だって。心配しなくても」
いつもより優しい声色の幸弘にびっくりして陸斗が目を見開くと、たちまち幸弘の顔が何かを企んでいる顔に変化した。
「ま、プレゼント渡せなくても俺がヤケ酒には付き合ってやるからさ。あ、俺たち未成年だからヤケコーラとかかな?」
意地悪なことを言っているのも陸斗のことを思ってのこと。
幸弘の気持ちもしっかり受け取って、陸斗はその思いに苦笑いで答えた。