チョコレート・ウォーズ
勝敗は如何に?
バレンタインデーの朝、靴箱の前で陸斗は大きなため息をつく。

上履きに履き替えようと靴箱の扉を開けた瞬間、バラバラと出てくる色とりどりの箱たち。

それは紛れもなく、陸斗宛ての女子たちからの贈り物である。

「……食べ物を履物と一緒にすんな」

軽く舌打ちをして、陸斗は床に散らばったチョコレートの箱を集める。

きっと、手渡しで渡そうとしても陸斗が断るのを知っている女子生徒たちが入れているのだろう。

さすがの陸斗も差出人を探してまで突き返す気力もない。

大きなため息をついて拾っていると、横目にもうひとつの手が見えた。

何個かのチョコを拾い上げ、杏奈は陸斗の手に拾ったチョコレートを乗せる。

「おはよ、陸斗くん。大量ねぇ。これ入れて帰る袋、持ってるの?」

「持ってねぇよ。あ、高梨、持って帰って食うか?」

「一応私も女子だからね。恋する女の子の気持ちを奪うことは出来ないわよ」

それよりも、と杏奈の口から出てきたのは衝撃の言葉。

「莉子、今日熱出して学校休むって」

「え!?」

「朝、連絡あったのよ。まだ病院行ってないからただの風邪なのかインフルなのかはわかんないらしいけど」

「そっか……」

「さすがに熱あるのに学校には来れないわよね。陸斗くんが今日欲しいのは、たったひとつだけのチョコなのに、残念ね」

杏奈の言葉に、力なく陸斗は苦笑する。

一番もらいたかった相手に会えないとか、何かの罰ゲームなんじゃないかとさえ思う。

そんな絶望感が陸斗を包もうとしたとき、ポケットの中の携帯電話が震えた。

ディスプレイに表示されたのは、莉子の弟、大地の名前。

『もしもし、陸にぃ?』

「ああ、どうした?」

『あのさ、今日、姉ちゃん熱出して寝込んでんだけど』

「らしいな、さっき聞いた」

『でさ。陸にぃに頼みがあるんだけど』

大地の口から飛び出した依頼に、陸斗の顔が緩む。

「おはよ、……って、高梨。陸斗、どうしたんだ?」

「さっきまで不機嫌だったのに、なぜか電話の途中からニコニコしてきたのよ。よっぽどうれしい内容だったのかしら?」

さっき登校してきた幸弘と杏奈がそんな会話をしていることは、もはや陸斗の耳には入っていない。

陸斗の頭の中は、早く放課後になってほしい。ただそれだけとなっていた。

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