チョコレート・ウォーズ
「起きたか?」

ぼんやりと瞼を開いた莉子の耳に、聞こえるはずもない声が聞こえてきた。

目をパチパチとまばたきさせたあと目を見開くが、そこには、マスクをした陸斗の姿があった。

「りっくん、なんで……?」

「大地に頼まれたんだよ。雛子さんと慎吾さんがデートに行けるように、莉子のことを看ててくれないかって」

「大ちゃんが、そんなことを?」

普段から、しっかり者で周りをよく見ている大地は、弟ながら心強くもあり、時々自分のことが恥ずかしくなることもある。

朝は『姉ちゃん、お大事に~』なんて呑気に出かけていたのに、陰では陸斗にそんなことを頼んでいたとは。

大地の優しさに莉子が感動していると、莉子の気持ちを汲み取ったようで、陸斗も柔らかく微笑みうなずいた。

「雛子さんには風邪が移ったら大変だからって、最初は断られたけどな。マスク着用を条件に、許可もらったんだよ。ちょっと息苦しいけど」

陸斗はそう言って、自分のマスクを右手で触りながら微笑む。

「ごめんね、迷惑かけて」

「何言ってんだよ。俺は今日、莉子に会いたかったし、願ったり叶ったりだ」

陸斗の発言に胸がキュン、となり、赤くなる顔を隠すように掛け布団を目の下まで持ち上げると、陸斗の目が少しだけ細くなる。

「こら。せっかく会いに来てんだから顔見せろよ」

「……恥ずかしいから、嫌だ」

「なぁ莉子。そんなこと言うと期待しちゃうだろ」

「そうだ。りっくんにチョコレート渡さなきゃ」

その言葉にハッとして、ベッドから起き上がろうとする莉子を、陸斗が制した。

「急に動くな。しんどくなるぞ」

「大丈夫。りっくん、私のカバン取ってもらってもいい?」

陸斗はうなずき、机の横にあった通学用のカバンを莉子に差し出す。

「あのね、この間りっくんに言われて、考えたの。私は、りっくんのことどう思っているのかって」

ちゃんと伝わるように、莉子は一言一言を、丁寧に紡いでいく。

緊張して、声が震える。それでも莉子は、しっかりと陸斗の目を見つめて言葉をつなぐ。

「私、りっくんとずっと一緒にいたい。今までも、これからも、りっくんの側にいたい。わたしの好きと、りっくんの好きは、一緒ですか?」

「当たり前だろ」

呟くと同時に、陸斗の腕が莉子の体に回される。

「り、りっくん?」

陸斗の腕の中から視線を上げると、真っ赤になった陸斗の耳だけが見えていた。

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