チョコレート・ウォーズ
「ああ。うちの親父、変に生真面目でさ。高校生には手ぇ出せないって、母さんが卒業するまで待ってたんだと」

「恋バナとかしてくれるんだ?」

莉子の質問に、陸斗の顔に苦笑いが浮かぶ。

「聞いてもないのに喋ってくんだよ。慎吾さんと雛子さんの話とかも、俺が聞いてもないのに教えてくれる」

「パパが聞いたら怒りそうだね」

ふたりの父親は、事務所の先輩、後輩という間柄で、十代の頃からの知り合いだ。

莉子の父のことをとても可愛がっているのが子どもたちの目から見ても明らかなのだが、それが時々度を過ぎていて、たまに本気でキレられているのを見かけることもある。

勝手に自分たちの過去の話を陸斗に話していることを知ったら、慎吾はきっといつもの調子で怒り出すのだろうな、と莉子がぼんやり考えていると、陸斗の両手が頬を包み込んだ。

「だから、お互いの両親が出来なかったこと、したいなと思ってた。だから、制服着れるうちに、莉子にちゃんと自分の気持ちを伝えたかったんだ」

「ありがとう、りっくん」

自分の両手を陸斗の両手に重ねると、コツン、とおでこが当たる音がする。

お互い見つめあうこと数秒、空気を読まずに響いたのは、小さなお腹の音。

「……ごめん。私、お昼も食べずに寝ちゃってて……」

「雛子さんがおかゆ作ってるって言ってた。今持ってきてやるから待ってろ」

笑いをかみ殺した顔をした陸斗が立ち上がる。

そして、「あっ」と小さな声を上げ、莉子の手に小さな箱を置く。

「開けてもいい?」

陸斗が頷いたので、ガサゴソと包みを開く。

包みを開けて出てきたのは、小さなハートがついたネックレス。

「わぁ。可愛い」

「逆バレンタイン。重いかも知れないけど」

「重い? そんなことないよ。軽くてつけやすそう」

相変わらずの莉子の発言に、陸斗はハハハ、と笑いだす。

「私なんかおかしいこと言った?」

「いや。あのさ、莉子」

「うん?」

「それ、ちゃんと着けてて。片時も離さず。そしたらさ、俺の言ったことわかるから」

「わかった」

何もわからず莉子はうなずく。

そんな莉子が、陸斗がネックレスをプレゼントした意味を知るのは、そんな遠くはない未来のこと。

その意味を知ったときの莉子の表情を想像しながら、陸斗は今度こそ、夕食の準備をしようと立ち上がった。

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