チョコレート・ウォーズ
誰にでも優しいフェミニスト。杏奈の幸弘評も最初はそうだったが、しばらくすると例外がいることに気づいた。

陸斗の幼馴染である莉子に対する態度や視線が、他の誰にも見せないものだったのだ。

それに気づいているのはおそらく自分だけだと、杏奈は思っている。

いつも莉子と一緒にいる杏奈だからこそ、違いが気づくのだ。

そして同時に知ってしまったのは、幸弘以上に莉子への気持ちが溢れている陸斗の想い。

陸斗が莉子のことを強く強く思っていることを、幸弘も知っていて、いつも応援していることだった。

幸弘が陸斗を励ましているたびに、杏奈の心はズキズキと痛む。

自分の気持ちを押し殺して相手を応援するなんて、すごい辛いはずなのに、なんでそんな笑顔でいられるのだろう。

無理をしなくていいのに。我慢しなくてもいいのに。私みたいに、逃げてもいいのに、と。

そして、幸弘の苦しみを少しでも軽くできる存在になりたいと思っている自分に気づいたとき、杏奈は心の中に芽生え始めていた恋心に気づいてしまった。

止めておいたほうがいい。止めておくべきだ。

頭の中では警告音が鳴り、ブレーキを掛けようとするのに、想いは募るばかり。

それは、行動にも現れてしまい、数量限定の想いが伝わる『ショコラ・ショコラ』のチョコレートを予約購入してしまうほど。

そのチョコレートはまだ、杏奈のカバンの中に密かに入っている。

カバンを手にし、杏奈は教室を出た幸弘の背中を追いかけた。





幸弘と入ったのは、駅近くの商業ビルの中のカフェ。

中に入り、杏奈はカフェオレとシフォンケーキを、幸弘は小腹が空いたからと、コーヒーとホットサンドを注文する。

オーダを告げ、杏奈が目の前の水を口にしたとき、幸弘の携帯電話が震えた。

画面を追っかけていた幸弘の瞳が、優しい弧を描き、口角もキュッ、と上がった。

「陸斗と莉子ちゃん、上手くいったみたいだぞ」

「ホント?」

「ああ。莉子ちゃんもだいぶ熱下がってて、飯も食えるくらいにはなってるらしい。高梨と一緒だってさっきメール送ってたから、陸斗が伝えておいてくれって」

「ありがとう。私も後で莉子にメールしてみる」

ちゃんと笑えているだろうか。親友の恋が実った喜びよりも、目の前の幸弘の気持ちを考えてしまい、素直に喜べない自分がいた。

幸弘はそんな杏奈の心境には気づいていない様子で、柔らかい微笑みを浮かべて陸斗へ返事を送っているようだった。

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