チョコレート・ウォーズ
「ウソ」

「噓なんてついてない。高梨は覚えてないかも知れないけど、入学式の日の朝、お前気分悪くなってる女の人助けて、介抱してただろ」

話しながら、幸弘の脳裏にあの時の風景が浮かんでくる。

自分と同じ学校の制服を着た女子生徒が、明らかに顔色の悪い女性と一緒に、幸弘の使う駅のベンチにいた。

「大丈夫ですか?」

背中をさすり、自動販売機からミネラルウォーターを買ってきて、女性に渡している姿を見て、いいなと思った。

「学校行ったら、教室に高梨が入ってくるの見て、やった、と思った。ついでに言うと、莉子ちゃんと仲良くなってくれて、チャンスだと思った。莉子ちゃんの横にはいつも陸斗がいる。だったら、陸斗と一緒にいる俺は、高梨と接点が増えるって」

それでもまだ、杏奈は信じていないようだった。何度も頭を振って、「そんなことない」と口を開く。

「だって、赤瀬の好きなのは莉子じゃないの?」

「なんでそこで莉子ちゃんが出てくるんだよ。莉子ちゃんは陸斗のもんだろ」

「でも、莉子を見る表情は、全然違ってた!」

「……確かに、他の女子と比べたら特別は特別、だけど。それは何だろうなあ。自分の可愛い妹的な? とにかく、恋愛感情なんてねぇよ。っていうかあったら俺、陸斗にぶっ殺されるって」

ようやく杏奈も理解が出来てきたようで、最後の冗談にはクスリと笑ってくれた。

「莉子ちゃんを見る表情よりも、高梨を見る表情に気づいてほしかったけどな」

「そんなの、他の子と一緒だったよ?」

「陸斗は気づいてたぞ。俺が高梨のこと、好きなこと。『わかりやすっ』って一言言い放って」

「それは、陸斗くんが赤瀬と仲良しだからじゃないの」

「あー、もうムカつく」

幸弘の突然の声に、杏奈がビクッと肩を震わせた。

「そこ。なんで陸斗くん、なのに俺のことは赤瀬なわけ?」

「は? そういう赤瀬だって……」

「杏奈」

杏奈の言葉を遮るように名前を呼ぶと、杏奈が固まった。

「杏奈。俺は中学の時の最低な奴とは違う。俺の意思で、お前が好きだって言ってるんだ。返事、聞かせてくれないか」

杏奈からの返事はない。代わりに杏奈のカバンから出てきたのは、赤い箱。

何気なく見ていたテレビで見たことがあった、その箱の正体。

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