チョコレート・ウォーズ
*
杏奈からのメールを読み、陸斗はホッとして大きな息を吐いた。
その姿を見て、赤瀬幸弘(あかせ ゆきひろ)が話しかける。
「高梨、何だって?」
「莉子、落ち着いたって。今から一緒に教室出て帰るってさ」
「こんなに落ち込むなら、なんで言っちゃったよ、莉子ちゃんに」
「ユキには分かんねぇよ」
「分かんねぇわ。ずーっと幼馴染のことが好きで、その子が鈍感すぎるから、気持ちも告げずにずーっと側にいて。そのくせ寄って来る男は威嚇して近寄らせないとか。独占欲強くて嫉妬深くて、このこと知ったら莉子ちゃんびっくりするだろうねぇ」
陸斗は思わず幸弘を睨みつけるが、幸弘は涼しい顔をして外を見る。
「ま、莉子ちゃんに気づいてもらうにはいい機会だったんじゃね。言ってしまったもんは仕方ないんだし、後は待つしかないだろ」
「そうだな」
幸弘につられて窓の向こうを見ると、杏奈と一緒に歩く莉子の姿が見えた。
小さい頃からいつも一緒だった莉子。
そんな彼女を陸斗が意識するようになったのは小学校五年生の頃。
同級生が莉子のことを可愛い可愛いと連呼していて、とてもイラつき、もどかしくなったことで、陸斗は自分の気持ちに気づいた。
それからは、幸弘の言うとおり。いつも莉子の側にいて、他の男を威嚇してきた。
『宮脇さんの彼氏なのか?』という問いかけに、勝手にうなずいたことも幾度かあった。
莉子の可愛さは、自分だけがわかっていればいい。
そう思っていたけれど、年がたつにつれ、莉子はどんどん可愛くなってくる。
だけど、隣にいる陸斗の気持ちにはまったく気づいてくれない。
今日だって、いつものように屈託のない笑顔で『私もりっくんのこと好きだよ』と笑う莉子。
普段なら気持ちを隠して頭を撫でるくらいのことは出来たのに、今日はどうしても気持ちを抑えることができなかった。
一方的に自分の気持ちをぶつけてしまった。
でも、莉子にわかってほしかった。自分がどれだけ莉子のことを大事に思っているのかを。
幼馴染の関係から、一歩進みたいと思っていることを。
「なあ、ユキ」
「ん?」
「俺の気持ち、莉子に伝わるかなあ」
「クールなイケメンの陸斗くんの落ち込む姿が見れるなんて、俺ってラッキーだねぇ」
「……からかうなよ」
「冗談だよ」
ポン、と陸斗の肩に手を置き、幸弘は笑う。
「莉子ちゃんを一番近くで見てきたのはお前だ。ってことは、陸斗を一番近くで見てきたのだって莉子ちゃんだよ。だからきっと大丈夫。お前の気持ちは伝わるよ」
「サンキュ」
ようやく陸斗の顔にも笑顔が戻る。
「さ、俺たちも帰ろうぜ。今日のメシ、何だろうなぁ」
「俺んとこ、多分おでん。昨日から母さん煮込んでたし」
「マジで? いいなあ、俺おでん好きなだよ」
他愛のない会話をしながら、ふたりは図書室を離れた。