チョコレート・ウォーズ



杏奈からのメールを読み、陸斗はホッとして大きな息を吐いた。

その姿を見て、赤瀬幸弘(あかせ ゆきひろ)が話しかける。

「高梨、何だって?」

「莉子、落ち着いたって。今から一緒に教室出て帰るってさ」

「こんなに落ち込むなら、なんで言っちゃったよ、莉子ちゃんに」

「ユキには分かんねぇよ」

「分かんねぇわ。ずーっと幼馴染のことが好きで、その子が鈍感すぎるから、気持ちも告げずにずーっと側にいて。そのくせ寄って来る男は威嚇して近寄らせないとか。独占欲強くて嫉妬深くて、このこと知ったら莉子ちゃんびっくりするだろうねぇ」

陸斗は思わず幸弘を睨みつけるが、幸弘は涼しい顔をして外を見る。

「ま、莉子ちゃんに気づいてもらうにはいい機会だったんじゃね。言ってしまったもんは仕方ないんだし、後は待つしかないだろ」

「そうだな」

幸弘につられて窓の向こうを見ると、杏奈と一緒に歩く莉子の姿が見えた。

小さい頃からいつも一緒だった莉子。

そんな彼女を陸斗が意識するようになったのは小学校五年生の頃。

同級生が莉子のことを可愛い可愛いと連呼していて、とてもイラつき、もどかしくなったことで、陸斗は自分の気持ちに気づいた。

それからは、幸弘の言うとおり。いつも莉子の側にいて、他の男を威嚇してきた。

『宮脇さんの彼氏なのか?』という問いかけに、勝手にうなずいたことも幾度かあった。

莉子の可愛さは、自分だけがわかっていればいい。

そう思っていたけれど、年がたつにつれ、莉子はどんどん可愛くなってくる。

だけど、隣にいる陸斗の気持ちにはまったく気づいてくれない。

今日だって、いつものように屈託のない笑顔で『私もりっくんのこと好きだよ』と笑う莉子。

普段なら気持ちを隠して頭を撫でるくらいのことは出来たのに、今日はどうしても気持ちを抑えることができなかった。

一方的に自分の気持ちをぶつけてしまった。

でも、莉子にわかってほしかった。自分がどれだけ莉子のことを大事に思っているのかを。

幼馴染の関係から、一歩進みたいと思っていることを。

「なあ、ユキ」

「ん?」

「俺の気持ち、莉子に伝わるかなあ」

「クールなイケメンの陸斗くんの落ち込む姿が見れるなんて、俺ってラッキーだねぇ」

「……からかうなよ」

「冗談だよ」

ポン、と陸斗の肩に手を置き、幸弘は笑う。

「莉子ちゃんを一番近くで見てきたのはお前だ。ってことは、陸斗を一番近くで見てきたのだって莉子ちゃんだよ。だからきっと大丈夫。お前の気持ちは伝わるよ」

「サンキュ」

ようやく陸斗の顔にも笑顔が戻る。

「さ、俺たちも帰ろうぜ。今日のメシ、何だろうなぁ」

「俺んとこ、多分おでん。昨日から母さん煮込んでたし」

「マジで? いいなあ、俺おでん好きなだよ」

他愛のない会話をしながら、ふたりは図書室を離れた。

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