チョコレート・ウォーズ
*
「おかえり、莉子ちゃん」
「ただいま」
杏奈と別れ、莉子が家に戻ると、母親の雛子が台所で夕飯の支度をしているところだった。
「今日はビーフシチューよ」
「わあ。ママのビーフシチュー、大好き」
莉子の言葉に雛子は嬉しそうに微笑む。
台所に立つ母の後ろ姿を見つめながら、莉子は杏奈との会話を思い出す。
陸斗に対する『好き』って、一体どういうことなんだろう。
今までも、陸斗のことは大好きだった。
そしてこれからも、陸斗が大事な人でいることには間違いない。
でもそれは、友達として? それとも……。
「莉子ちゃん?」
気づくと、目の前に雛子が立っていた。
「どうしたの、ぼーっとしちゃって。熱でもあるの?」
「ううん、そんなことないよ。ちょっと考えごと」
「そう? ならいいんだけど」
「あ、あのね。ママ」
「なあに?」
「ママとパパって、幼馴染、だったんだよね?」
雛子がフワリ、と微笑む。
「そうよ。慎くんのお家がお隣で、ずっと一緒だったの」
「……ママはパパのこと、小さい頃から好きだった?」
「ええ、ずっと大好きだったわよ」
「どんな風に?」
「どんな、って……。もしかして、りっくんに彼女でも出来た?」
思いがけない雛子の切り返しに、莉子はブンブン首を横に振る。
「よかったぁ。莉子ちゃんもママと同じような思いをしたのかと思って、心配しちゃったじゃない」
「ママと同じって?」
「莉子ちゃんから質問も来たことだし、今日はうちの男性陣はちょっと帰りが遅いから、話しちゃおうかな」
そうやって茶目っ気たっぷりに笑って、雛子は莉子の肩を押してリビングのソファへと引っ張っていく。
「話って?」