桜の季節、またふたりで
まどかの言う通りだ。


私は、ケンカとか揉め事を避けていた。


小さい頃から、自分の希望を伝えるのが苦手だった。


やりたいことや欲しいものがあっても、お母さんを困らせたくなくて我慢した。


だけど本当は、我慢するのが『いい子』だと思いこんでいただけなのかもしれない。


お母さんに『いい子』と言われたくて、我を通すことをしなくなっただけなのかもしれない。



「まどか、竣くんに話してから、またお願いする」


「わかった、日曜午後は予定あけとくから。


美春、ちゃんと本音をぶつけるんだよ」


「うん、ありがとう」



その日の放課後、図書館へ行く前に整備工場をのぞいてみた。


珍しく誰もいなくて、ガランとしてた。


いつもなら、誰かしら作業をしていて、忙しそうなのに。


今日はやめておこう、と思って帰ろうとしたら、


「竣、ちょっと厳しいかもしれないな」


社長さんの声が聞こえた。


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