桜の季節、またふたりで
たまたま今は誰も並んでないし、店長や他のバイトも離れているからいいけど。


「130円になります」


チルドのコーヒーにピッとリーダーを当て、なるべく無表情を装った。


「美春ちゃん、明日もバイト?」


「はい、土日はだいたいここでバイトしてます」


しまった、思わず余計なことをしゃべっちゃった。


「そっか、がんばってんだな」


五十嵐さんが130円を私の手のひらにのせる時、少しだけ指先がふれた。


男っぽい、骨ばった指先。


ふれた部分が、妙に熱い。


「袋にお入れしますか?」


「入れなくていいよ」


バーコードにテープを貼ってから手渡しする時、今度は私の指先が五十嵐さんの手にふれた。


コーヒーを持っている私の両手を、一瞬まるで包みこまれたように感じた。


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