桜の季節、またふたりで
「じゃ、またな」


例の笑顔で、コーヒー片手に出口に向かっていく後ろ姿を、なんとなく見送ってしまった。


出入り口の扉が閉じ、我に返って手元を見ると、カウンターに紙が置いてあった。


なんだろ、これ。


手にとって裏返して一読したら、体が勝手に動いて制服のポケットに入れてしまった。


どうして、こんな紙を置いていくの?


その日は一日中、五十嵐さんのことが浮かんでは消えて、また浮かんでくる繰り返しだった。



家に帰ってから、紙を何度も見た。


紙の質感や文字の形が、記憶に残るほどに。


『ふたりで会いたいから、連絡ください』


・・・ふたりで会うって、なんのために?


連絡先も、覚えてしまった。


紙も、男性が使うにしてはかわいすぎるメモ用紙。



これが、竣くんと私の『はじまり』だった。


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