桜の季節、またふたりで
あんな家、見られたくない。


「どうして、私の家がわかるんですか?」


「美春ちゃん、おもしろいこと言うな。


これから家まで送ってくんだから、場所わかるだろ?」


そうだった、まだタオルを借りて拭いただけで、車は少しも動いていない。


「バイト先は行くけど、家まで押しかけたりしないっつーの」


笑いながら、私の頭をクシャッとなでた。


まだ少し濡れて重たい髪が、五十嵐さんの手でほぐされて。


私の固く閉ざした心も、ゆるんでいくみたいだった。


「家を見られたくないんだったら、近くまでしか行かないからさ」


どうして、私の気持ちがわかるんだろう。


それに、一緒にいると、なぜか落ち着く。


「えっと、ひとつ先の信号を右折して、郵便局のところを入ったあたりで下ろしてください」


「わかった、でもさ、せっかくだから、もう少し話してもいいだろ?」


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