桜の季節、またふたりで
「えっと、それは・・・」


「責めてんじゃないし、捨てろなんて言わない。


今日、斉藤さんが来たのも知ってるんだし。


ただ、事実が知りたいだけ」


「同棲はじめた時、カズと選んだマグカップ・・・です」


「そっか」


一瞬、竣くんがさみしそうな顔になったのを、私は気づいてしまった。


こんな話を聞いたって、楽しいはずない。


マグカップの存在に気づいちゃう竣くんの、そういう繊細なところが好きなところでもあるんだけど。


やっぱり、マグカップやケーキ皿のこと、気づいてたんだ。


どうしよう、何か別の話題にしないと・・・


「あっ、そうだ、これ」


カズが置いていった合鍵を手渡した。


「この部屋の鍵だから、いつでも来て」


「じゃあ、毎日くるぞ」


やっと、笑ってくれた。


「いいよ、毎日来ても」


竣くんは、私がプレゼントしたキーホルダーに、合鍵をつけてくれた。


「俺、明日休みだから、泊まっていい?」


「もちろん」


「今度、俺の部屋にも来いよ」


「うん」


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