桜の季節、またふたりで
あれは、入籍を無事すませた数日後。


私は、車の雑誌をつくっている編集部にまだいて、8月からの異動の内示は出ていなかった。


私の結婚相手が整備士だとわかってから、部のみんなの対応が変わってきていて、あわよくば新情報をつかんでくるかも・・・という雰囲気を感じていた。


私は、そういう公私混同はイヤだな、と思ってはいたけど、新入社員の立場でそんなことが言えるはずもなく。


そして、竣くんに言えるはずもなく。


ちょっと、複雑な気持ちでいた。


その年の秋に、竣くんが働いているメーカーで新しい軽自動車が発売されることになり、私は資料をもらいたくて会社帰りに竣くんの勤務先へ寄ることにした。


メッセージは送っておいたけど、仕事中だと竣くんはスマホを見られないから、私が来ることは知らなかったんだと思う。


店舗に着いて、店内へ入ろうとしたら、外から話し声が聞こえた。


「結婚したって、本当ですか?」


ちょっと涙声のような気がして、思わず立ち止まった。


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