桜の季節、またふたりで
「本当ですよ」


返事をしたのは、竣くんの声だった。


声をたどると、表通りからは見えない店舗の陰で、こちらに背中を向けている作業着姿の竣くんがいた。


顔は見えないけど、向かい合っている女性はスーツを着ていた。


店舗の事務の人の制服ではないから、出入りする業者さんかもしれない。


「私ずっと前から、五十嵐さんのことが好きです」


「えっ?」


竣くんは、予想外のことに驚いてるみたいだった。


私はいたたまれなくなって、その場を離れた。


そのまま店内へ入って、資料をお願いした。


しばらく待っていたら、顔見知りの営業マンが気をきかせてくれて、竣くんを呼んでくれた。


「美春、どうかした?」


「うん、ちょっと仕事で資料をもらいにきて」


「俺いま休憩だから、裏でお茶でも飲む?」



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