桜の季節、またふたりで
「おーい、そこの西高の子、これ落としたけど?」


男性の声がもう一度聞こえた。


西高は、確かに私が通っている高校だ。


歩いて行けることだけを条件に選んだ高校。


可もなく不可もなく、ごく普通の公立高校。


ここでようやく、もしかしたら私のことかもしれないと思った。


でも、すぐには振り返らず、立ち止まって周囲を確認した。


私以外の西高の人が、いるかもしれないし。


でも、私以外には、誰もいなかった。


そこで、ゆっくり振り向いた。


振り向いたら、手が届きそうなほど近くに人がいて、驚いてビクッと体が動いてしまった。


「やっと気づいてくれた、これ大事なプリントじゃない?」


笑いながら言う彼は、茶髪に汚れた作業着姿で、笑うと見た目以上に幼くなった。


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