桜の季節、またふたりで
「手をつなぐのは、イヤ?」


「いえ、イヤではないんですけど、ビックリしちゃって」


「じゃあ改めて、手つないでいい?」


「・・・はい」


五十嵐さんのあったかい左手が、私の右手を包みこんだ。


「あそこ座るか」


五十嵐さんが右手で指差したのは、少し先にある防波堤だった。


階段をのぼり、五十嵐さんの左側に座った。


・・・手がつながったままなんですけど。


緊張して、手汗かいちゃいそう。


五十嵐さんは、息を深く吸って、話し出した。


「俺、この海沿いの街に、小学3年まで住んでたんだ。


両親と1つ年下の弟と、4人で。


だけど、ある日突然、母さんがいなくなった。


マイホーム買ったばかりだったし、両親のケンカなんて見たことなかったから、俺は状況を理解できなかった。


父さんはかなり荒れて、一時期大変だったけど、落ちついてから会社近くの今俺が住んでるマンションに引っ越した」


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