桜の季節、またふたりで
気やすく口をはさめず、五十嵐さんの横顔をただみつめていた。


「で、俺と弟は転校先で学童に入って、母さんが帰ってくるのを待ってた。


だけど、帰らないまま小学校を卒業して、中学に入る前に、母さんが他に男をつくって家を出たから、離婚したって父さんから聞いた。


父さんが仕事に集中できるように、俺は食事や弁当を自分で作るようになって、弟が高校を卒業するまでは必死に頑張った。


はやく父さんを楽にしてやりたかったから、手に職つけたかったし、車も好きだったから、高校卒業したら専門学校入って整備士になった。


弟も料理の専門行って、福岡の料亭に就職した。


俺たち兄弟の独立を見届けてすぐ、父さんは交通事故で死んだ。


だから俺、こんな見た目だけど、絶対に安全運転するって決めてるんだ。


初めて美春ちゃんを見かけたのは、1年前の高校の入学式の帰りでさ。


他の子は親や友達と一緒に歩いてんのに、美春ちゃんは一人だった」


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