桜の季節、またふたりで
「ごめん、急に言われたって困るよな。


告白するからには、先に俺のことを知ってもらおうと思っただけだから。


そろそろ車に戻るか」


私の右手を軽く引き上げて、もと来た道を引き返す。


何か言わなきゃ、伝えなきゃ、と焦れば焦るほど、言葉が出てこない。


「この辺はなーんも変わんねーな」


つぶやく五十嵐さんの左手を、少しだけ強く握った。


そんなことしても気持ちは伝わらないってわかってたけど、それが精一杯だった。


五十嵐さんは振り返って優しく笑うと、私の右手を握りかえしてくれた。


夕飯を食べて帰ろうということになり、帰り道の途中にあったファミレスに入った。


平日の夜なのに、けっこう混んでいた。


窓際の角の席に向い合わせで座ると、恥ずかしくなってあまり五十嵐さんを見ることができなかった。


< 38 / 231 >

この作品をシェア

pagetop